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移転価格税制とは?基本概念と仕組みを米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.07.19
06. 移転価格税制

当サイトの全ての記事は、米国のグローバル企業を中心に国際税務の実務経験を積んだ米国公認会計士によって執筆・監修されています。国際税務総合研究所は、「わかりやすく、正確に、そして実務に役立つ」国際税務の情報を発信することを目的とした国際税務の総合情報メディアです。専門用語をかみくだいた表現と、現場視点に基づく実務解説を通じて、基礎から経営者・実務担当者まで広く役立つコンテンツをお届けしています。

移転価格税制とは、企業グループ内で行われる国際取引(例えば親会社と海外子会社間の売買やサービス取引)の価格設定が、市場で成立するはずの価格(独立企業間価格)と異なる場合に、あたかも独立企業間価格で取引が行われたものとみなして課税所得を計算する仕組みです。この制度の目的は、親会社と子会社などの関連会社間の意図的な価格操作によって利益を低税率国に移転させ、特定の国の税収を不当に減らしてしまうことを防ぐことにあります。たとえば、日本の親会社が海外子会社に実際より安い価格で商品を売り、海外子会社の利益を不当に増やした場合、結果として日本で課税される利益が減少します。このようなケースでは、移転価格税制により価格を独立企業間価格に引き直して再計算し、税負担の移転が防止されます。

移転価格税制の基本原則

独立企業間価格(Arm’s Length Price)の考え方

移転価格税制の中心にある考え方が「独立企業間価格の原則」です。これは、「たとえ親会社と子会社のような資本関係にある会社間の取引価格であっても、資本関係のない第三者企業同士で行われる取引価格を基準に設定されるべきだ」という考え方です。具体的には、グループ内取引の価格は、同じ条件下で第三者同士が取引した場合に合意する価格(独立企業間価格)と同等でなければならないとされ、これを独立企業間価格(Arm’s Length Price)と呼びます。経済的合理性のある価格と考えられる独立企業間価格が移転価格税制場の「あるべき取引価格」と位置づけられるため、これが資本関係にある関連会社間の取引価格の基準となります。各国の移転価格税制は、不当な価格操作によって国の税収が歪められることを防止するため、この原則の遵守を求めています。

移転価格税制の目的

移転価格税制の趣旨は、租税回避の防止と適正な課税の実現にあります。多国籍企業グループでは、親会社が海外子会社との取引価格を操作し、利益を税負担の軽い国に集める租税回避の手法が可能になります。たとえば、親会社が仕入れた商品を低い価格で海外子会社に販売して日本の利益を減らしたり、逆に高い価格で販売して海外利益を減らすケースです。このように意図的に課税所得を減らす行為を放置すると、その国の税収が不当に減少してしまいます。移転価格税制はこれを防ぎ、日本企業が海外子会社との不当な取引によって税負担を恣意的に軽減するのを防止しています。

なお、移転価格税制では課税所得が増える取引(つまり親会社に有利な取引)については実質的に適用対象外となります。より正確には、例えば日本と米国の取引において、日本側の税収が増えるような取引については日本の税務当局は実質的に適用対象外としている、ということです。つまり、「日本における移転価格税制はあくまで日本の国益を守る観点で敷かれている制度であり、日本にとって税収が増えるサイドの話(つまり日本にとってプラスとなる話)については日本の税務当局はいちゃもんをつけないよ」ということです。

一方で、相手国側では移転価格税制の適用対象になっている可能性が高いため、注意が必要です。移転価格税制は各国が独自に設定している税制であるので、その本質は「国家間の税収の取り合い」です。上の例で日本側の税収が大きくなっているということは、反対に相手国であるアメリカ側の税収は少なくなっています。つまり、日本サイドで移転価格税制の適用対象外と考えられた場合には、相手国側では移転価格税制が適用される税務リスクが少なからず存在するということです。移転価格の問題は必ず2国間以上の税制が絡みますので、「相手国側での移転価格リスクはないか」という視点を常に持つことが肝要です。

実務上のポイント:海外各国の移転価格税制については日本の税理士ではなく、各国の会計士・税理士及び専門家に相談を仰ぐのがベストです。グローバルにオフィスを構えるBIG4を例にとっても、日本オフィスの移転価格チームはあくまで日本の移転価格税制に精通しているのみで、海外各国の移転価格税制については当該国にあるBIG4各事務所の日本デスクと密に連携して対応しています。移転価格税制そのものは税法として守るべきルールは多くありませんが、各国の税務当局との交渉力や彼らを納得させる理論武装という観点で、税制の知識だけではなく経験がものをいう領域ですので、グローバルに連携が可能な会計事務所を選択することをお勧めします。

日本における移転価格税制の仕組み

日本では移転価格税制が昭和61年(1986年)に導入され、法人税法(租税特別措置法)第66条の4などで規定されています。対象となるのは「国外関連者」と呼ばれる企業グループ内の取引で、国外関連者とは特定の支配従属関係がある外国法人を指します。具体的には、一方の法人が他方の発行済株式の50%以上を直接または間接に所有する関係、もしくは客観的にみて実質的な支配関係があるとみなされる関係が該当します。したがって、日本企業が過半数支配する海外子会社との取引は移転価格税制の適用対象となり得ます。非関連の第三者間取引や少数出資(実質的に支配関係にある関連会社は除く)では原則として適用されません。

適用対象となる取引の例

移転価格税制の対象となるのは、有償の事業取引であれば大部分が該当します。具体的には以下のような取引が含まれます:

  • 商品の販売・仕入れ(有形資産取引)

  • 製造ノウハウなどのライセンスや特許権の譲渡・貸付(無形資産取引)

  • 人やコンサルティングなどサービスの提供(役務取引)

  • グループ内での貸付・金利設定(グループ・ファイナンス取引)

たとえば、日本本社が海外子会社に人員を出向させ、その人件費を子会社が負担しない場合や、逆に無償で有価なサービスを子会社へ提供した場合も、「みなし取引」とされて課税対象となることがあります。この場合、これらの価格を独立企業間価格に修正し、必要に応じて所得を日本国内に加算します。なお、移転価格の否認(調整)が行われる場合、最大7年分まで(平成31年度税制改正大綱により6年から7年へ延長)遡って更正される可能性があるため、長期間の記録保存と価格設定の正当化が重要です。

移転価格の算定方法

移転価格税制では、国外関連取引の価格を独立企業間価格とみなすため、具体的な算定方法が定められています。日本の税法(租税特別措置法第66条の4第2項)では、OECD移転価格ガイドラインに認められた以下の方法などから最も適切な方法を選んで算定することとされています。主な算定方法には次のようなものがあります。

  • 独立価格比準法 (CUP法):同種の物品取引について、関連者ではない第三者間で成立した価格を参考にする方法。

  • 再販売価格基準法 (Resale Price Method):海外子会社などが仕入れた後に第三者に再販売した価格から、適正な利益率を引いた価格を独立価格とみなす方法。

  • 原価基準法 (Cost Plus Method):親会社等のコストに適正なマークアップを加えた価格を独立価格とみなす方法。

  • 取引単位営業利益法 (Transactional Net Margin Method; TNMM):売上高や原価に対する営業利益率などを比較対象企業と比較し、独立価格を推定する方法。

  • 利益分割法 (Profit Split Method):グループ全体の利益を、関連者間の貢献度に応じて分割し、各社の取引価格を算定する方法。

これらのうち、独立価格比準法は直接的に第三者取引価格を参照できる点で最も信頼性が高いとされていますが、同種取引のデータが得られない場合も多いため、状況に応じて他の方法も併用します。いずれの場合も、納税者が用いた算定方法とその根拠を税務当局に説明できるよう、取引の事実関係や比較対象企業の選定根拠などの詳細な資料を整えておく必要があります。

OECD移転価格ガイドラインと国際的枠組み

移転価格税制は日本だけの制度ではなく、OECD移転価格ガイドラインに基づく国際的な枠組みです。OECD(経済協力開発機構)のガイドラインは、多国籍企業と税務当局が共通に使う指針で、移転価格の算定方法や文書化要件などが詳しく記載されています。日本もOECD加盟国として、1986年の導入以来このガイドラインに沿って制度を整備しており、独立企業間価格の算定方法はOECD認定の手法に準じています。つまり、日本の移転価格税制は諸外国と共通の国際基準に立っており、グローバルに整合性のとれた課税が目指されています。

近年ではOECDのBEPSプロジェクト(租税回避行為に対する対策)でも移転価格文書化(行動13)などが勧告され、日本でも平成28年度(2016年)税制改正でマスターファイル・ローカルファイル制度が導入されました。これにより、多国籍企業グループでは国際的にガイドラインに則った情報開示と透明性が求められています。

マスターファイル・ローカルファイルの概要

日本の移転価格文書化制度は、OECDのBEPS行動13に基づく「三層構造」を採用しています。これは、①国別報告書(CbCレポート)、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つの文書により、企業グループのグローバル活動と個別取引の両方を税務当局に透明化する枠組みです。

このうち、CbCレポートは連結売上高1,000億円以上の多国籍企業グループの最終親会社に提出義務があり、対応する国内法人には「最終親会社等届出事項」の提出も求められます。これらの文書は、移転価格税制のリスクベース調査の判断材料としても活用されます。マスターファイルには、多国籍企業グループ全体の事業概要や移転価格ポリシーなどを記載し、こちらも原則として直前事業年度の連結売上高が1,000億円以上の企業グループに所属する国内法人が作成・提出義務があります。

一方、ローカルファイルは実際に国外関連取引を行っている国内法人が、自社の個別取引について独立企業間価格の算定根拠を示すための詳細な資料です。国内法人は、前事業年度における国外関連取引の合計額が50億円以上(無形資産取引は3億円以上)であれば、確定申告期限までにローカルファイルを作成・保存する必要があります。

これらの文書化義務により、税務調査時には取引価格の妥当性が事前に検証されやすくなり、適正な申告を促す仕組みとなっています。

まとめ:移転価格税制のポイント

移転価格税制は、国際的なグループ企業間で利益を移転させる租税回避を防ぎ、各国の税収を守るための制度です。ポイントは「独立企業間価格の原則」に従って取引価格を算定し、必要ならば価格を修正して課税する仕組みであることです。日本ではOECDガイドラインに準拠した方法が採用され、移転価格文書化や事前確認(APA)など制度が整備されています。初学者の方はまず「関係会社との取引でも市場価格で取引しなければならない」という趣旨と、その背景にある租税回避の防止という目的を理解しましょう。

移転価格税制に関して疑問や具体的なケースがおありの方は、税務専門家への相談も一つの手段です。国際税務総合研究所では無料・匿名で質問できる窓口「みんなの国際税務Q&A」を設置しており、本サイトの編集部が一般的な見地からの回答をご提供しています(詳細はサイト内をご覧ください)。まずは当研究所の解説記事やQ&Aをご活用いただき、制度の基本理解を深めてみてください。


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