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QDMTT(適格国内ミニマム課税)とは? 仕組み・導入の背景・実務上の影響を米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.07.19
03. ミニマム課税
ITRI編集部

当サイトの全ての記事は日米BIG4出身の公認会計士・税理士で構成される国際税務の専門家チームが監修しています。

QDMTT(適格国内ミニマム課税)の基本的な仕組み・導入の背景・実務上の影響まで、実務担当者が押さえるべきポイントを米国BIG4出身の会計士が丁寧に解説します。実務経験に基づいた視点で、ミニマム課税対応の注意点をわかりやすくお伝えします。

はじめに

QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax/適格国内ミニマム課税)は、OECDが主導する国際課税ルール、いわゆる「グローバル・ミニマム課税(正式名称:GloBEルール)」の一部として導入が進められている新たな法人課税制度です。

この制度を一言で表すなら、「自国で完結する追加課税の仕組み」。つまり、他国によるトップアップ課税(追加課税)を受ける前に、自国でその差額を先取り的に課税する制度です。

背景にあるのは、BEPS 2.0Pillar 2で定められた最低15%の実効税率。このルールにより、一定のグローバル企業グループには、全世界的に15%の実効税率が求められるようになりました。

なぜQDMTT(適格国内ミニマム課税)が必要とされるのか

この制度の導入目的は明快で、「他国に課税権を奪われる前に、自国で課税する」という実務的ニーズに応えるためです。

たとえば、ある国に所在する子会社の実効税率が15%を下回っていた場合、その差額分は親会社の所在国などで課税される仕組み (グローバル・ミニマム課税)となっています。これはグローバル・ミニマム課税(GloBEルール)における「所得合算+差額課税」の考え方に基づくものです。

ここでQDMTT(適格国内ミニマム課税)を導入している国であれば、その差額分をまず自国で課税することができます。結果として、他国に税収を奪われることなく、自国の課税権を維持できるわけです。

シンガポールなどの国が積極的にQDMTT(適格国内ミニマム課税)の導入を検討しているのも、まさにこの課税主権の確保という観点があるからです。

対象企業と制度の適用範囲

QDMTT(適格国内ミニマム課税)の対象となるのは、以下のような条件を満たす多国籍企業グループです:

  • 連結ベースでの年間売上高が7億5,000万ユーロ(約1,100億円)以上

  • 複数の国・地域にわたり子会社や支店を展開しているグループ構造

このようなグローバル企業にとっては、国ごとの実効税率の把握が必須となり、QDMTT(適格国内ミニマム課税)が適用される可能性のある国では対応準備が急務となっています。

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QDMTT(適格国内ミニマム課税)は企業にどのような影響をもたらすのか

QDMTT(適格国内ミニマム課税)は制度設計の背景に「課税権の確保」という国家間の力学を持っていますが、それが企業に与える影響は決して国家間というマクロ的な話ではありません。むしろ、グローバルに事業を展開する企業にとっては、日々の税務実務に直結する制度となっています。

なぜなら、QDMTT(適格国内ミニマム課税)が導入されることで、これまで対象外だった国や地域においても「GloBEルール(グローバル・ミニマム課税の正式名称)に準拠した課税」が求められる可能性が高まり、各国での実効税率の算定、申告対応、そしてシステム整備などを企業側が主導的に行う必要が生じるためです。

つまり、QDMTT(適格国内ミニマム課税)は「どの国がどのくらい課税するか」だけでなく、「企業がどのように税務情報を整備し、グループ内で整合性ある対応を行えるか」という実務上の新たなテーマを突きつけているのです。

実務上の留意点:何に備えるべきか

では、実務上どのような点に注意すべきか。以下に、特に重要なポイントを整理します。

  • 実効税率の正確な算定
    GloBEルールに基づく「調整後実効税率」の算定には、通常の財務会計とは異なる論点が含まれます。たとえば、特定の繰延税金や税額控除の扱い、恒久的差異の調整など、GloBEルール特有の算定要素への理解が不可欠です。

  • 各国制度とのギャップの把握と調整
    QDMTT(適格国内ミニマム課税)の運用ルールは国ごとに異なります。企業としては、自社の関係会社が所在する国の制度内容を正確に把握し、適用タイミングや計算ルールの差異によるリスクをあらかじめ洗い出しておく必要があります。

  • 税務ガバナンス体制の再設計
    多国籍企業グループにとっては、GloBEルールおよびQDMTT(適格国内ミニマム課税)への対応を全社的に管理する体制が求められます。特に、各国からの税務データの収集、精査、統一的なレビュー体制は、制度の複雑化に伴い再構築が必要となる領域です。

  • 会計・税務システムの整備
    実効税率の管理やGloBEルール関連情報の申告に対応するため、既存システムだけでは対応が難しいケースも想定されます。必要に応じて、税務データの統合管理ツールやシミュレーション機能の追加、専門家への相談を検討すべきです。


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おわりに

QDMTT(適格国内ミニマム課税)は、単なる一国の税制改正にとどまらず、「グローバル・ミニマム課税時代」の到来を象徴する制度です。これからの国際税務においては、もはや自国の制度だけを見ていればよい時代ではありません。親会社がどこにあるか、子会社がどこで利益を上げているかにかかわらず、グループとして最適な税負担構造を描くためには、各国のQDMTT対応を含めた、より広範な視野と戦略が求められます。


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米国公認会計士

日系企業の海外展開における国際税務のエキスパート。国際税務プランニングおよび移転価格税制対応を得意とし、海外ビジネスに必要な会計・税務ソリューションの提供だけではなく海外子会社の業務改善や現地スタッフとのコミュニケーション支援も行っています。アメリカ大手会計事務所BIG4の国際税務部門出身。ワシントン州米国公認会計士。


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