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【移転価格税制:導入編①】移転価格とは?全体像を5分で掴む | 米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.07.19
06. 移転価格税制
ITRI編集部

当サイトの全ての記事は日米BIG4出身の公認会計士・税理士で構成される国際税務の専門家チームが監修しています。

この記事では国際税務で頻出の「移転価格税制」をテーマに、まずはその全体像を掴んでいただくことを目的に、制度の目的から基本となる概念について丁寧に解説していきます。

移転価格税制の目的

移転価格税制の目的は、一言でいえば「グループ会社間の取引を利用して、税金の安い国へ利益を意図的に移す『利益の国外逃避』を防ぐ」ことにあります。これだけだと少し分かりにくいので、ジュースを作る会社を例に見てみましょう。

【具体例】日本のジュース会社と、税金が安い国の販売子会社

例えば、日本の親会社「ジャパンフーズ」と税率がとても低いA国にある子会社「A国販社」があったとします。

  • 日本の親会社(ジャパンフーズ): 1本100円のコストで画期的なジュースを開発・製造。日本の法人税率は30%
  • A国の販売子会社(A国販社): 親会社からジュースを仕入れて、A国で販売。A国の法人税率はたったの10%

そしてこのジュースは、もし全く関係ない会社に売るなら適正な市場価格(独立企業間価格)として1本150円で売れる価値があるとします。

本来あるべき姿(公正な価格での取引)

このジュースは1本150円で売る価値があるわけですから、親会社が子会社へ適正価格の150円でジュースを売った場合には、

  • 親会社(日本)の利益: 150円(売上) – 100円(コスト) = 50円
  • 日本で納める税金: 50円 × 30% = 15円
  • 子会社(A国)の利益: 160円(売上) – 150円(コスト) = 10円
  • A国で納める税金: 10円 × 10% = 0.1円

これが、ビジネスの実態に合った公正な利益配分となるはずです。

利益操作が行われた場合(不当に安い価格での取引)

ここで、親会社が「グループ会社なのだから、子会社には安く売ってあげよう」と考えたケースを見てみましょう。親会社は子会社に不当に安い105円でジュースを売った場合は以下のような計算になります。

  • 親会社(日本)の利益: 105円(売上) – 100円(コスト) = たったの5円
  • 日本で納める税金: 5円 × 30% = 1.5円

一方で、子会社は105円で仕入れたジュースを市場価格の150円で売るので、利益が大きく膨らみます。

  • 子会社(A国)の利益: 150円(売上) – 105円(仕入) = 45円
  • A国で納める税金: 45円 × 10% = 4.5円

これの何が問題なのか?

さて、この一連の取引の何が問題なのでしょうか。結果をよく見てみると、本来は日本で生まれるはずだった利益の大部分(50円 – 5円 = 45円分)が税率の低いA国に移転してしまいました。その結果として日本の税収は15円から1.5円へと激減してしまいます。

反対に、A国での利益は10円から45円に増加し、結果としてA国で納付する税金は0.1円から4.5円へと増加しています。

そしてこの点が肝になるのですが、最終的なこの親子会社が納めた税金の合計額を見てみると、従来の15.1円(日本での15円 + A国での0.1円)から6円(日本での1.5円 + A国での4.5円)へと激減しています。このように、グループ会社間の取引価格を自由に設定できてしまう場合では、多国籍企業は意図的に利益を軽課税国に集め、グループ全体の税負担を不当に軽くすることが可能となっています。

「移転価格税制」はこうした行為に「待った」をかけるルールです。要するに「親子会社間であっても、取引は全く関係のない第三者と取引するのと同じ『適正な市場価格(この例では150円)』で行いなさい」と定めています。これにより、各国が正当な税収を確保できるようにしているのです。

実務上のポイント:海外各国の移転価格税制については日本の税理士ではなく、各国の会計士・税理士及び専門家に相談を仰ぐのがベストです。グローバルにオフィスを構えるBIG4を例にとっても、日本オフィスの移転価格チームはあくまで日本の移転価格税制に精通しているのみで、海外各国の移転価格税制については当該国にあるBIG4各事務所の日本デスクと密に連携して対応しています。移転価格税制そのものは税法として守るべきルールは多くありませんが、各国の税務当局との交渉力や彼らを納得させる理論武装という観点で、税制の知識だけではなく経験がものをいう領域ですので、グローバルに連携が可能な会計事務所を選択することをお勧めします。

押さえておきたい基本概念「独立企業間価格(Arm’s Length Price)」

移転価格税制の中心にある考え方が「独立企業間価格の原則」です。これは、「たとえ親会社と子会社のような資本関係にある会社間の取引価格であっても、資本関係のない第三者企業同士で行われる取引価格を基準に設定されるべきだ」という考え方です。

具体的には、グループ内取引の価格は、同じ条件下で第三者同士が取引した場合に合意する価格(独立企業間価格)と同等でなければならないとされ、これを独立企業間価格(Arm’s Length Price)と呼びます(先ほどの例における「適正な市場価格 = 150円」 のことです)。


ITRI編集部

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日本における移転価格税制の仕組み

「移転価格税制(Transfer Pricing Rules)」はグローバルに各国で導入されている仕組みですが、日本では移転価格税制が昭和61年(1986年)に導入され、法人税法(租税特別措置法)第66条の4などで規定されています。

対象となるのは「国外関連者」と呼ばれる企業グループ内の取引で、国外関連者とは特定の支配従属関係がある外国法人を指します。具体的には、一方の法人が他方の発行済株式の50%以上を直接または間接に所有する関係、もしくは客観的にみて実質的な支配関係があるとみなされる関係が該当します。したがって、例えば日本企業が過半数の株式持分を所有する海外子会社との取引は移転価格税制の適用対象となり得ます。非関連の第三者間取引や少数出資(実質的に支配関係にある関連会社は除く)では原則として適用されないと覚えておくと良いでしょう。]

適用対象となる取引の例

有償の事業取引であればほぼ全ての関連者間取引が移転価格税制の対象取引となります。商品や製品のやり取りだけでなく、役務提供などのサービス取引も対象であるという点は意外と盲点であるようですので、注意が必要です。具体的には以下のような取引が含まれます:

  • 商品の販売・仕入れ(有形資産取引)

  • 製造ノウハウなどのライセンスや特許権の譲渡・貸付(無形資産取引)

  • 人やコンサルティングなどサービスの提供(役務提供取引)

  • グループ内での貸付・金利設定(グループ・ファイナンス取引)

たとえば日本本社が海外子会社に人員を出向させ、その人件費を子会社が負担しない場合や、逆に無償で有価なサービスを子会社へ提供した場合も、「みなし取引」とされて課税対象となることがあります。この場合、これらの価格を独立企業間価格に修正し、必要に応じて所得を日本国内に加算することとなります。

なお、移転価格の否認(調整)が行われる場合、最大7年分まで平成31年度税制改正大綱により6年から7年へ延長されました)遡って更正される可能性があるため、長期間の記録保存と価格設定根拠の一貫性が重要になります。

移転価格の算定方法

移転価格税制では国外関連取引の価格を独立企業間価格とみなすため、具体的な算定方法が定められています。日本の税法(租税特別措置法第66条の4第2項)では、OECD移転価格ガイドラインに認められた以下の方法などから最も適切な方法を選んで算定することとされています。主な算定方法には次のようなものがあります。

  • 独立価格比準法 (CUP法):同種の物品取引について、関連者ではない第三者間で成立した価格を参考にする方法。

  • 再販売価格基準法 (Resale Price Method):海外子会社などが仕入れた後に第三者に再販売した価格から、適正な利益率を引いた価格を独立価格とみなす方法。

  • 原価基準法 (Cost Plus Method):親会社等のコストに適正なマークアップを加えた価格を独立価格とみなす方法。

  • 取引単位営業利益法 (Transactional Net Margin Method; TNMM):売上高や原価に対する営業利益率などを比較対象企業と比較し、独立価格を推定する方法。

  • 利益分割法 (Profit Split Method):グループ全体の利益を関連者間の貢献度に応じて分割し、各社の取引価格を算定する方法。

これらのうち、独立価格比準法は直接的に第三者取引価格を参照できる点で最も信頼性が高いとされていますが、同種取引のデータが得られない場合も多いため、状況に応じて他の方法も併用します。いずれの場合も、納税者が用いた算定方法とその根拠を税務当局に説明できるよう、取引の事実関係や比較対象企業の選定根拠などの詳細な資料を整えておく必要があります。

グローバルにみた移転価格税制の概要(補足)

OECD移転価格ガイドラインと国際的枠組み

移転価格税制は日本だけの制度ではなく、OECD移転価格ガイドラインに基づく国際的な枠組みです。OECD(経済協力開発機構)のガイドラインは多国籍企業と税務当局が共通に使う指針で、移転価格の算定方法や文書化要件などが詳しく記載されています。日本もOECD加盟国として、1986年の導入以来このガイドラインに沿って制度を整備しており、独立企業間価格の算定方法はOECDの手法に準じています。つまり、日本の移転価格税制は諸外国と共通の国際基準に立っており、グローバルに整合性のとれた課税が目指されています。

近年ではOECDのBEPSプロジェクト(租税回避行為に対する対策)でも移転価格文書化(行動13)などが勧告され、日本でも平成28年度(2016年)税制改正でマスターファイル・ローカルファイル制度が導入されました。これにより、多国籍企業グループでは国際的にガイドラインに則った情報開示と透明性が求められています。

マスターファイル・ローカルファイルの概要

日本の移転価格文書化制度はOECDのBEPS行動13に基づく「三層構造」を採用しています。これは、①国別報告書(CbCレポート)、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つの文書により、企業グループのグローバル活動と個別取引の両方を税務当局に透明化する枠組みです。

このうち、CbCレポートは連結売上高1,000億円以上の多国籍企業グループの最終親会社に提出義務があり、対応する国内法人には「最終親会社等届出事項」の提出も求められます。これらの文書は、移転価格税制のリスクベース調査の判断材料としても活用されます。マスターファイルには多国籍企業グループ全体の事業概要や移転価格ポリシーなどを記載し、こちらも原則として直前事業年度の連結売上高が1,000億円以上の企業グループに所属する国内法人に作成・提出の義務があります。

一方、ローカルファイルは実際に国外関連取引を行っている国内法人が、自社の個別取引について独立企業間価格の算定根拠を示すための詳細な資料です。国内法人は前事業年度における国外関連取引の合計額が50億円以上(無形資産取引は3億円以上)であれば、確定申告期限までにローカルファイルを作成・保存する必要があります。

これらの文書化義務により、税務調査時には取引価格の妥当性が事前に検証されやすくなり、適正な申告を促す仕組みとなっています。


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まとめ

移転価格税制は、国際的なグループ企業間で利益を移転させる租税回避を防ぎ、各国の税収を守るための制度です。ポイントは「独立企業間価格の原則」に従って取引価格を算定し、必要ならば価格を修正して課税する仕組みであることです。日本ではOECDガイドラインに準拠した方法が採用され、移転価格文書化や事前確認(APA)など制度が整備されています。初学者の方はまず「関係会社との取引でも市場価格で取引しなければならない」という趣旨と、その背景にある租税回避の防止という目的を理解しましょう。

移転価格税制に関して疑問や具体的なケースがおありの方は、税務専門家への相談も一つの手段です。国際税務総合研究所では無料・匿名で質問できる窓口「みんなの国際税務Q&A」を設置しており、本サイトの編集部が一般的な見地からの回答をご提供しています。まずは当サイトの解説記事やQ&Aをご活用いただき、制度の基本理解を深めてみてください。


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ワシントン州 米国公認会計士

日系企業の海外展開における国際税務のエキスパート。国際税務プランニングおよび移転価格税制対応を得意とし、海外ビジネスに必要な会計・税務ソリューションの提供だけではなく海外子会社の業務改善や現地スタッフとのコミュニケーション支援も行っています。アメリカ大手会計事務所BIG4の国際税務部門出身。ワシントン州米国公認会計士。


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