匿名・無料の質問箱はこちら 「月一メルマガ」の登録はこちら

【移転価格税制:導入編②】国外関連者とは?米国公認会計士・税理士が分かりやすく解説

2025.09.17
06. 移転価格税制
ITRI編集部

当サイトの全ての記事は日米BIG4出身の公認会計士・税理士で構成される国際税務の専門家チームが監修しています。

海外に子会社や支店をお持ちの企業、あるいは海外の特定企業と密接な取引がある場合、「国外関連者」という言葉を意識することが国際税務の第一歩となります。この国外関連者との取引は「移転価格税制」という特別な税制の対象となり、税務調査で指摘されやすい重要なポイントとなります。

この記事では国際税務の基本となる「国外関連者」とは何か、どのような関係が該当するのか、そしてなぜそれが重要なのかについて国際税務の専門家がわかりやすく解説していきます。

国外関連者とは?移転価格税制の出発点

国外関連者を一言でいえば「自社と何らかの特別な関係にある海外の法人」を指します。この「特別な関係」が具体的に何を指すのかが、非常に重要なポイントとなります。

日本の税法ではこの関係性を明確に定義しており、国外関連者との取引価格が通常の価格(独立企業間価格)と異なる場合、その差額に対して課税を行う「移転価格税制」の適用対象となります。つまり、ある海外企業が自社の国外関連者に該当するかどうかは移転価格税制のリスクを考える上での出発点となるのです。

なぜ国外関連者の理解が重要なのか?移転価格税制との関係は?

では、なぜ国外関連者を正しく理解することがそれほど重要なのでしょうか。それは、前述の通り「移転価格税制」が大きく関わってくるからです。

移転価格税制とは、企業が国外関連者との取引価格を意図的に操作し、所得を税率の低い国へ移転させることを防ぐための税制です。例えば、日本の親会社が海外の子会社に製品を不当に安く販売すれば、親会社の利益が減り、日本の法人税が減少します。一方で子会社の利益は増加しますが、その国の税率が日本より低ければ、結果としてグループ全体で見た税負担は軽くなります。

このような意図的な租税回避を防ぐため、税務当局は国外関連者との取引が「全く資本関係のない第三者との間で取引されるであろう価格(独立企業間価格)」で行われているかを厳しく監視しています。そして、その取引価格が不適切であると判断された場合、本来あるべき価格で取引が行われたものとみなして所得を再計算し、追徴課税を行うのです。

この税制の適用対象となるのが、まさに「国外関連者との取引」です。したがって、自社の取引先が国外関連者に該当するかどうかを正しく判定することが、移転価格リスクを管理する上で不可欠となります。


ITRI編集部

国際税務について『ちょっと気になる』『こんなこと聞いてもいいのかな?』という疑問から個別の具体的なご相談まで。どんな小さなご質問・ご相談でも、ITRI編集部は大歓迎です!
以下の詳細から、匿名・無料の相談窓口をお気軽にご利用ください。
ご質問への回答は原則として1〜3営業日以内に行います。

詳細はこちら


国外関連者に該当する「特別な関係」の判定基準

国外関連者に該当するかどうかは、「特別な関係」の有無によって判定されます。この「特別な関係」は、大きく分けて2つの基準から判断されます。それは、①株式の保有比率に基づく形式的な支配関係と、②それ以外の事実に基づく実質的な支配関係です。

① 50%以上の株式保有による支配関係(形式基準)

最も分かりやすい基準が株式の保有割合です。一方の法人が他方の法人の発行済株式総数の50%以上を直接または間接に保有している場合、この二つの法人間には支配関係があるとされ、互いに国外関連者となります。

  • 直接保有: 日本の親会社が海外子会社の株式を50%以上保有しているケースが該当します。
  • 間接保有: 例えば日本の親会社A社が、100%子会社である海外B社を通じて海外C社の株式を50%以上保有しているようなケースです。この場合、A社とC社も間接的な保有関係を通じて国外関連者と判定されます

② 実質的な支配関係(実質基準)

株式の保有割合が50%未満であっても国外関連者と判定される場合があります。それが「実質的な支配関係」がある場合です。たとえ資本的なつながりが薄くても、一方の法人が他方の法人の事業方針の全部または重要な部分を実質的に決定できると認められる事実がある場合には、特別な関係があるとみなされます。

実質的支配関係を判定する際の具体的な事実関係としては、具体的に以下のような例が挙げられます。

  • 役員関係: 一方の法人の役員が、他方の法人の役員の半数以上を占めている。あるいは、代表権を持つ役員が派遣されている。
  • 取引依存関係: 一方の法人の事業活動が、他方の法人との取引にその大部分を依存している。例えば、海外法人の売上のほとんどが特定の日本企業への売上であるケースが挙げられます。
  • 資金依存関係: 一方の法人の事業活動に必要な資金の大部分を、他方の法人からの借入れや保証に依存している。例えば、海外法人の事業資金のほとんどを特定の日本企業からの借入金でまかなっているケースです。

これらの要素は、いずれか一つに該当すれば直ちに国外関連者となるわけではなく、複数の事実関係を総合的に勘案して判断されます。株式保有率が低くとも実質的にビジネスをコントロールしていると見なされれば、国外関連者と認定される可能性がありますので、注意が必要です。

国外関連者と認定された場合のリスクと対応

自社と取引のある海外法人が国外関連者であると判定された場合、企業はどのような点に注意すべきでしょうか。

まず前述の通り、その取引は移転価格税制の適用対象となります。これは税務調査において、取引価格が独立企業間価格に準拠しているかどうかの説明を求められることを意味します。価格設定の根拠が曖昧であったり合理的でなかったりすると、多額の追徴課税を受ける移転価格リスクが生じます。

また一定規模以上の企業は、国外関連者との取引についてその価格の妥当性を証明するための文書(ローカルファイル)を作成し、確定申告の提出期限までに準備しておく義務があります。この文書化義務を怠った場合も、税務調査で不利な状況に陥る可能性があります。

これらのリスクに対応するためには、まず自社の海外取引先が国外関連者に該当するかどうかを正確にリストアップし、それぞれの取引について価格設定の根拠を明確にしておくことが重要です。


「月刊 国際税務ダイジェスト ( "月1メルマガ" ) 」のご案内

月に1度だけ、当サイトの編集部が厳選した国際税務に関する最新ニュースや注目トピックをまとめてお届け。その月に知っておくべき重要ポイントを一目で把握できるように編集していますので、最新情報のキャッチアップにぜひお役立てください。

📩 メールアドレスを登録するだけですぐにご利用いただけます。

*個人情報の取り扱いについては個人情報保護方針をご覧ください


まとめ

「国外関連者」は移転価格税制を理解する上で避けては通れない基本概念です。単純な株式保有率だけでなく、役員の派遣や取引の依存度といった実質的な関係性も考慮して判定する必要があり、その判断は必ずしも容易ではありません。

海外との取引がある企業のご担当者様はまず自社の取引関係を整理し、国外関連者に該当する可能性のある法人がないかを確認することから始めてください。もし判定に迷うケースや既に行っている取引の価格設定に不安がある場合は、移転価格税制による予期せぬリスクを回避するためにも、早期の専門家へのご相談をお勧めします。正確な現状把握こそが、適切な国際税務戦略の第一歩となります。


国際税務・海外税制で迷ったら「国際税務総合研究所」

米国BIG4出身の会計士・税理士を中心とするプロフェッショナルチームが執筆・監修。「国際税務総合研究所」は海外進出に欠かせない国際税務の知識や海外税制の最新情報をわかりやすく届ける総合情報メディアです。

「国際税務総合研究所」の特徴

1. 実務に役立つ情報をわかりやすく解説
「国際税務総合研究所」の記事は現場で生じたリアルな質問を出発点としています。そこに専門家の知見を掛け合わせることで、単なる制度解説や教科書的な知識ではなく現場で本当に役立つ情報へと磨き上げています。制度の仕組みを単に示すだけでなく「どうすれば実務でつまずかずに進められるのか」にこだわり、経営者や担当者がすぐに実務に活かせる形で情報発信しています。

2.「実務まで踏み込んだ解説」と「匿名・無料の相談窓口」
国際税務総合研究所では、実際のFAQや相談事例をもとに専門家へ相談しなくても理解・対応できるレベルまで踏み込んだ実務解説を提供しています。さらに、匿名・無料で利用できる相談窓口を設けており、ご質問への回答は原則として1〜3営業日以内に行います。一次的な解決やセカンドオピニオンとしてのご利用も可能です。

3. 最新動向を体系的に整理する「国際税務マガジン」
国際税務に関する情報や最新動向は専門的すぎる解説が多く、「いまいちわかったようでわからない」「もっと網羅的に国際税務を学習してみたい」といった現場の声をよく聞きます。そこで当サイトでは「国際税務マガジン」を発刊し、国際税務にまつわる10の重要テーマを整理しました。必要な情報をテーマ別に確認できるだけでなく、キーワード検索でピンポイントに答えを探したり関連知識を網羅的にたどったりできるよう設計しています。


ITRI編集部

Xでは最新のニュースから記事では書ききれない実務の小ネタまで、新着記事とあわせてタイムリーに発信中。公式Xアカウントはこちら👉 X (@globaltaxsoken)

この記事は役に立ちましたか?

 秘密厳守で、専門家が丁寧に回答いたします。
  回答は原則1〜3営業日以内に行います。

ワシントン州 米国公認会計士

日系企業の海外展開における国際税務のエキスパート。国際税務プランニングおよび移転価格税制対応を得意とし、海外ビジネスに必要な会計・税務ソリューションの提供だけではなく海外子会社の業務改善や現地スタッフとのコミュニケーション支援も行っています。アメリカ大手会計事務所BIG4の国際税務部門出身。ワシントン州米国公認会計士。


「月刊 国際税務ダイジェスト ( "月1メルマガ" ) 」のご案内

月に1度だけ、当サイトの編集部が厳選した国際税務に関する最新ニュースや注目トピックをまとめてお届け。その月に知っておくべき重要ポイントを一目で把握できるように編集していますので、最新情報のキャッチアップにぜひお役立てください。

📩 メールアドレスを登録するだけですぐにご利用いただけます。

*個人情報の取り扱いについては個人情報保護方針をご覧ください


あなたへのおすすめ記事

匿名・無料の質問箱はこちら 「月一メルマガ」の登録はこちら
目次