海外に子会社や支店をお持ちの企業、あるいは海外の特定企業と密接な取引がある場合、「国外関連者」という言葉を意識することが国際税務の第一歩となります。この国外関連者との取引は「移転価格税制」という特別な税制の対象となり、税務調査で指摘されやすい重要なポイントとなります。
この記事では国際税務の基本となる「国外関連者」とは何か、どのような関係が該当するのか、そしてなぜそれが重要なのかについて国際税務の専門家がわかりやすく解説していきます。
国外関連者とは?移転価格税制の出発点
国外関連者を一言でいえば「自社と何らかの特別な関係にある海外の法人」を指します。この「特別な関係」が具体的に何を指すのかが、非常に重要なポイントとなります。
日本の税法ではこの関係性を明確に定義しており、国外関連者との取引価格が通常の価格(独立企業間価格)と異なる場合、その差額に対して課税を行う「移転価格税制」の適用対象となります。つまり、ある海外企業が自社の国外関連者に該当するかどうかは移転価格税制のリスクを考える上での出発点となるのです。
なぜ国外関連者の理解が重要なのか?移転価格税制との関係は?
では、なぜ国外関連者を正しく理解することがそれほど重要なのでしょうか。それは、前述の通り「移転価格税制」が大きく関わってくるからです。
移転価格税制とは、企業が国外関連者との取引価格を意図的に操作し、所得を税率の低い国へ移転させることを防ぐための税制です。例えば、日本の親会社が海外の子会社に製品を不当に安く販売すれば、親会社の利益が減り、日本の法人税が減少します。一方で子会社の利益は増加しますが、その国の税率が日本より低ければ、結果としてグループ全体で見た税負担は軽くなります。
このような意図的な租税回避を防ぐため、税務当局は国外関連者との取引が「全く資本関係のない第三者との間で取引されるであろう価格(独立企業間価格)」で行われているかを厳しく監視しています。そして、その取引価格が不適切であると判断された場合、本来あるべき価格で取引が行われたものとみなして所得を再計算し、追徴課税を行うのです。
この税制の適用対象となるのが、まさに「国外関連者との取引」です。したがって、自社の取引先が国外関連者に該当するかどうかを正しく判定することが、移転価格リスクを管理する上で不可欠となります。
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国外関連者に該当する「特別な関係」の判定基準
国外関連者に該当するかどうかは、「特別な関係」の有無によって判定されます。この「特別な関係」は、大きく分けて2つの基準から判断されます。それは、①株式の保有比率に基づく形式的な支配関係と、②それ以外の事実に基づく実質的な支配関係です。
① 50%以上の株式保有による支配関係(形式基準)
最も分かりやすい基準が株式の保有割合です。一方の法人が他方の法人の発行済株式総数の50%以上を直接または間接に保有している場合、この二つの法人間には支配関係があるとされ、互いに国外関連者となります。
- 直接保有: 日本の親会社が海外子会社の株式を50%以上保有しているケースが該当します。
- 間接保有: 例えば日本の親会社A社が、100%子会社である海外B社を通じて海外C社の株式を50%以上保有しているようなケースです。この場合、A社とC社も間接的な保有関係を通じて国外関連者と判定されます。
② 実質的な支配関係(実質基準)
株式の保有割合が50%未満であっても国外関連者と判定される場合があります。それが「実質的な支配関係」がある場合です。たとえ資本的なつながりが薄くても、一方の法人が他方の法人の事業方針の全部または重要な部分を実質的に決定できると認められる事実がある場合には、特別な関係があるとみなされます。
実質的支配関係を判定する際の具体的な事実関係としては、具体的に以下のような例が挙げられます。
- 役員関係: 一方の法人の役員が、他方の法人の役員の半数以上を占めている。あるいは、代表権を持つ役員が派遣されている。
- 取引依存関係: 一方の法人の事業活動が、他方の法人との取引にその大部分を依存している。例えば、海外法人の売上のほとんどが特定の日本企業への売上であるケースが挙げられます。
- 資金依存関係: 一方の法人の事業活動に必要な資金の大部分を、他方の法人からの借入れや保証に依存している。例えば、海外法人の事業資金のほとんどを特定の日本企業からの借入金でまかなっているケースです。
これらの要素は、いずれか一つに該当すれば直ちに国外関連者となるわけではなく、複数の事実関係を総合的に勘案して判断されます。株式保有率が低くとも実質的にビジネスをコントロールしていると見なされれば、国外関連者と認定される可能性がありますので、注意が必要です。
国外関連者と認定された場合のリスクと対応
自社と取引のある海外法人が国外関連者であると判定された場合、企業はどのような点に注意すべきでしょうか。
まず前述の通り、その取引は移転価格税制の適用対象となります。これは税務調査において、取引価格が独立企業間価格に準拠しているかどうかの説明を求められることを意味します。価格設定の根拠が曖昧であったり合理的でなかったりすると、多額の追徴課税を受ける移転価格リスクが生じます。
また一定規模以上の企業は、国外関連者との取引についてその価格の妥当性を証明するための文書(ローカルファイル)を作成し、確定申告の提出期限までに準備しておく義務があります。この文書化義務を怠った場合も、税務調査で不利な状況に陥る可能性があります。
これらのリスクに対応するためには、まず自社の海外取引先が国外関連者に該当するかどうかを正確にリストアップし、それぞれの取引について価格設定の根拠を明確にしておくことが重要です。
まとめ
「国外関連者」は移転価格税制を理解する上で避けては通れない基本概念です。単純な株式保有率だけでなく、役員の派遣や取引の依存度といった実質的な関係性も考慮して判定する必要があり、その判断は必ずしも容易ではありません。
海外との取引がある企業のご担当者様はまず自社の取引関係を整理し、国外関連者に該当する可能性のある法人がないかを確認することから始めてください。もし判定に迷うケースや既に行っている取引の価格設定に不安がある場合は、移転価格税制による予期せぬリスクを回避するためにも、早期の専門家へのご相談をお勧めします。正確な現状把握こそが、適切な国際税務戦略の第一歩となります。