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【移転価格税制:導入編③】移転価格税制に注意すべき4つの理由を米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.09.22
06. 移転価格税制
ITRI編集部

当サイトの全ての記事は日米BIG4出身の公認会計士・税理士で構成される国際税務の専門家チームが監修しています。

グローバルに事業を展開する企業にとって、「移転価格税制」は避けて通れない極めて重要な税務上の論点です。「言葉は聞いたことがあるが、なぜそれほど重要視されるのか分からない。」「もし税務調査で指摘されたら具体的にどのような影響があるのだろうか。」このような疑問をお持ちの経営者や経理担当者の方も少なくないと思います。移転価格税制への対応を怠ると、予期せぬ多額の追徴課税や最悪の場合「二重課税」という深刻な事態に陥る可能性があります。

この記事では、国際税務の実務に携わってきた専門家として、なぜ移転価格税制に留意すべきなのか、その本質的な理由を4つのポイントに絞って解説していきます。

海外ビジネスで必須の知識|移転価格税制に留意すべき4つの理由

海外のグループ会社との取引がある企業が、移転価格税制に対して常に高い意識を持つべき理由は、主に以下の4つに集約されます。

理由1:追徴課税が「二重課税」に直結する

移転価格税制に関する最大のリスクは、何と言っても「二重課税」の発生です。

各国の税務当局は自国の税収を確保するため、国外の関連会社へ所得が不当に流出していないかどうか常に厳しい目を光らせています。そして日本の税務当局による調査の結果、国外関連者との取引価格が不適切(独立した第三者間で行われる価格とかけ離れている)と判断された場合、本来あるべき価格で取引が行われたものとみなして日本の所得を再計算し、追加の法人税を課税します。

重要なのは、この日本の税務当局による更正(課税)が取引相手である海外子会社の国の税務申告に自動的に反映されるわけではない、という点です。海外子会社は、当初の取引価格に基づいて既にその国で納税を済ませています。

その結果、日本で更正された所得部分に対して日本と海外子会社の所在国の両方で課税されてしまう国際的な「二重課税」状態が生じるのです。

そして最も厄介なのが、二重課税が一度発生してしまうと、その解消は決して容易ではないという点です。

主な解決手段としては、両国の税務当局間での話し合いを求める「相互協議」という手続きがあります。しかし、この相互協議は申し立てから合意に至るまで数年単位の長い時間を要することが一般的です。また、必ずしも納税者の主張が全面的に認められるとは限らず、最終的に二重課税の一部が解消されないまま終わるケースも存在します

このように、一度この二重課税の問題が発生するとその解決には多大な経営資源を投入せざるを得なくなるのです。

理由2:対象となる取引の範囲が非常に広い

移転価格税制は、特定の取引のみを対象とするものではありません。「国外関連者」との間で行われる取引のほぼ全てがその適用対象となります。

国外関連者とは、株式の保有割合が50%以上の親子関係や兄弟会社関係だけでなく、役員の兼任や重要な取引依存度など実質的な支配関係がある海外法人も含まれます。また対象となる取引(国外関連取引)も、製品や部品の売買といった有形の資産取引に限りません

  • 無形資産の提供(ロイヤルティの支払いなど)
  • 役務提供(経営指導、マーケティング支援、技術サポートなど)
  • 金銭の貸付け・借入れ(利息の授受)

上記のように、企業の国際的な活動におけるあらゆる取引が対象となり得ます。つまり、海外にグループ会社があれば常に移転価格税制のリスクを念頭に置く必要があります。


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理由3:指摘された場合の更正金額が多額になる傾向

移転価格調査で指摘を受けた場合、その追徴税額は数千万円から時には数十億円にものぼることがあります。ではなぜこれほど高額になるのでしょうか。

その理由は、移転価格の算定が個々の取引単価ではなく、一定期間の取引総額を基準に行われるためです。例えば、海外子会社へ販売している製品1単位あたりの価格設定に僅か数パーセントのズレがあったとします。一見すると些細な差ですが、年間を通じて大量の取引が行われればその取引総額は巨額になります。

仮に年間20億円の取引があり、税務当局から「利益率を5%上乗せすべき」と指摘された場合、課税所得が1億円も増加することになります。そしてこれに法人税率を乗じた金額が追徴課税の対象となります。さらに、これらの取引が継続的なものであればこの追徴課税が複数年分に及ぶ可能性もあり、企業のキャッシュフローに深刻な影響を与えかねません。

理由4:対応に専門知識と多大な労力を要する

国外関連者との取引価格が税務上「妥当」であると証明するためには、多大な時間と労力、そして高度な専門知識が求められます。

税務当局に対して価格の妥当性を主張するには、「独立企業間価格(Arm’s Length Price)」、つまり「全く資本関係のない第三者同士の取引であったならば設定されたであろう価格」で取引が行われていることを客観的なデータに基づいて示す必要があります。この独立企業間価格を算定するためには、

  • 取引に関わる親子会社がそれぞれ果たしている機能や負担しているリスク(機能リスク分析)の詳細な分析
  • 比較対象となる独立した第三者間取引の選定とその妥当性の検証
  • 最適な移転価格算定方法の選択

といった複雑なプロセスを経る必要があり、これらを適切に文書化(移転価格文書、いわゆるローカルファイルの作成)しておかなければなりません。これらの対応を一般的な会社の経理や税務部門が独自に行うのは難しいケースが多く、相応の対応コストが発生することとなります。


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まとめ:移転価格リスクは事前の対策がすべて

今回は海外ビジネスを展開する企業が移転価格税制になぜ留意すべきなのか、その4つの本質的な理由について解説しました。移転価格税制は「知らなかった」では済まされない、国際取引における最も重要な税務リスクの一つです。税務調査で指摘を受けてから対応するのではなく、事前に取引価格の妥当性を検討しその根拠を文書として整備しておくことが何よりも重要となります。

自社の海外取引に関して少しでも不安を感じる点があれば、深刻な事態に陥る前に国際税務を専門とする税理士などの専門家へ早期に相談することを強くお勧めします。


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ワシントン州 米国公認会計士

日系企業の海外展開における国際税務のエキスパート。国際税務プランニングおよび移転価格税制対応を得意とし、海外ビジネスに必要な会計・税務ソリューションの提供だけではなく海外子会社の業務改善や現地スタッフとのコミュニケーション支援も行っています。アメリカ大手会計事務所BIG4の国際税務部門出身。ワシントン州米国公認会計士。


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