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移転価格税制の「5%マークアップ」とは?適用要件と注意点を米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.09.28
3. 移転価格税制
監修者

米国の大手会計事務所にて日系企業を含む多国籍企業の国際税務実務に従事。現在は、同じく米国の日系会計事務所にて会計・税務を軸にアメリカ進出企業のバックオフィス業務を幅広く支援している。日系企業のアメリカ進出を支援する情報メディア「アメリカ進出ナビ」を運営。米国公認会計士 / 米国税理士 (Enrolled Agent)

移転価格税制の実務に携わっていると、しばしば「5%マークアップ」という言葉を耳にすることがあるかと思います。特に、海外の親子会社間で経理や人事といった管理業務のサポートが行われる際に、その対価をいくらに設定すべきかという文脈で登場します。そして、この「5%」という数字の分かりやすさから「子会社への役務提供はとりあえずコストに5%を上乗せしておけば問題ない」という認識が一人歩きしてしまうケースも散見されます。

しかし、この理解は大きな税務リスクを伴う可能性があります。本記事ではこの「5%マークアップ」がどのような経緯で導入され、どのような取引に適用できるのか、そして実務で陥りがちな誤解や注意点は何かについて、国際税務の専門家が基礎からわかりやすく解説します。

1. 移転価格税制における「5%マークアップ」の正体

まず結論からになりますが、移転価格税制における「5%マークアップ」とは、特定の条件を満たす「低付加価値グループ内役務提供」について、その役務提供の総原価に5%の利益を上乗せした金額を独立企業間価格と見なすことを認める、という価格算定方式のことを指します。

そして実務において重要なのは、これが全ての国外関連者間取引に適用できる万能なルールではないという点です。あくまで、限定された範囲の取引に対して認められた、いわば「セーフハーバー」ルールの一種と理解することが重要です。

2. なぜ「5%」なのか?その背景と制度趣旨

2.1. グローバルな租税回避への対策(BEPSプロジェクト)が発端

この「5%マークアップ」のルールが導入された直接のきっかけは、2010年代にG20およびOECD(経済協力開発機構)が主導した「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクト」です。

このプロジェクトでは、多国籍企業が各国の税制の違いや抜け穴を利用して利益を軽課税国へ移転させることで、グローバルな税負担を人為的に軽減する行為が問題視されました。その典型的な手法の一つが、本来は大きな価値を生まない管理業務などを低税率国にある子会社に集約させ、高税率国にある親会社がそこに高額な業務委託料を支払うことで、高税率国の利益を圧縮するというものでした。

このような問題に対処するため、BEPSプロジェクトの最終報告書では、グループ内役務提供の中でも特に補助的で付加価値の低い活動については煩雑な移転価格分析を省略し、簡易な算定方法を導入することが提言されました。これが「低付加価値グループ内役務提供(Low Value-Adding Intra-Group Services)」の概念と、それに対する5%マークアップルールの原型です。

2.2. 日本における制度の導入

OECDの提言を受け、日本でも2019年度の税制改正に関連する通達の改正が行われました。具体的には、国税庁が公表している「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」の中に低付加価値グループ内役務提供に関する規定が盛り込まれ、この5%マークアップの考え方が正式に導入されることとなりました。これにより、納税者は一定の要件を満たすことを前提に、税務当局に対して5%マークアップの合理性を主張しやすくなったのです。

3. 「5%マークアップ」を適用できる具体的な要件

では具体的に、どのような役務提供であればこの5%マークアップルールを適用できるのでしょうか。国税庁の指針では、以下のような要件を満たす必要があるとされています。

3.1. 対象となる役務提供の性質

まず、その役務提供が以下の性質を持つ補助的な活動であることが求められます。

  • 企業の主たる事業(中核的事業活動)に直接関連しないものであること。
  • その役務提供において、独自の重要な無形資産を使用したり創出したりしないこと。
  • その役務提供の遂行や管理において、重要なリスクを引き受けたり管理・コントロールしたりしないこと。

簡単に言えば、企業の根幹ビジネスである製造、販売、研究開発などとは一線を画す、バックオフィス的なサポート業務をイメージすると分かりやすいでしょう。

3.2. 対象となる役務提供の具体例

国税庁は、低付加価値の役務提供に該当し得る活動の例として以下のようなものを挙げています。

  • 会計帳簿の作成、予算管理、財務監査などの会計・財務に関する事務
  • 債権債務管理、信用リスク管理などの債権管理に関する事務
  • 雇用、給与計算、福利厚生などの人事に関する事務
  • 情報通信システムの保守・管理などのITサポートに関する事務
  • 広報活動の支援、契約書作成の支援などの法務・広報に関する事務
  • 申告書作成支援、納税管理などの税務に関する事務

3.3. 適用が除外されるケース

一方で、上記の具体例に該当するような活動であっても適用が認められないケースがあります。最も重要なのは、「その役務提供自体が企業グループの中核的事業活動である場合」です。

例えば、会計コンサルティング会社や人材派遣会社が、その本業である会計サービスや人事サービスを国外の関連会社に提供するような場合は低付加価値グループ内役務提供には該当しません。あくまで、非中核的なサポート業務であることが大前提となります。

4. 実務上の誤解と税務調査でのリスク

この5%マークアップルールは納税者にとって事務負担を軽減する有用なものですが、その適用を誤ると、かえって税務調査で指摘を受けるリスクを高めることになります。

誤解1:「全てのグループ内役務提供に5%を適用できる」

これは最も陥りやすい誤解です。前述の通り、5%マークアップが適用できるのは低付加価値グループ内役務提供に限定されます。例えば、親会社が持つ重要な製造ノウハウや独自技術を子会社に指導する場合や重要なマーケティング戦略の立案を支援する場合などは、明らかに付加価値の高い活動であり、低付加価値グループ内役務提供には該当しません。

このような取引に安易に5%マークアップを適用した場合、税務調査において「本来もっと高い対価を受け取るべきであった」と判断され、差額が寄附金として認定されるなどの厳しい指摘を受ける可能性があります。

誤解2:「5%で申告すれば絶対に安全」

5%マークアップはあくまで簡易な算定方法であり、適用するための前提条件を満たしていることを納税者側が立証できなければなりません。「低付加価値な役務提供である」と主張するだけで、その根拠資料がなければ、税務当局からその主張を否認される可能性があります。

したがって、このルールを適用する場合には以下の点を明確に説明できる文書やエビデンス(証跡)を準備しておくことが極めて重要です。

  • どのような役務提供が行われたのか(具体的な活動内容の記述)
  • その役務提供が、なぜ低付加価値グループ内役務提供の定義に合致するのか(中核的事業ではないこと等の説明)
  • 役務提供にかかった総原価はいくらか(原価計算の根拠資料)
  • (複数の子会社が受益する場合)原価を配賦する基準は合理的か(配賦基準の説明)

これらの対応を怠るとせっかくのセーフハーバーが機能せず、結果として詳細な移転価格分析を求められる事態になりかねません。

5. まとめ

移転価格税制における「5%マークアップ」は、BEPSプロジェクトを背景に導入された、低付加価値グループ内役務提供に対する簡易的な価格算定ルールです。このルールを正しく活用すれば、移転価格算定に関する企業の事務負担やコンプライアンスコストを軽減できるというメリットがあります。

しかし、その適用はあくまで「補助的なサポート業務」に限定されており、付加価値の高い取引には使えません。また、「5%」という数字だけにとらわれ、なぜその取引が低付加価値グループ内役務提供に該当するのかを客観的な資料で説明できなければ、税務リスクを回避することはできません。

自社のグループ内取引に対価を設定する際は、まずその取引の性質を慎重に分析し、低付加価値グループ内役務提供に該当するのか、それともより付加価値の高い取引なのかを見極めることが第一歩となります。その上で、適用するルールに応じた適切な価格設定とそれを裏付ける文書化を徹底することが、将来の税務リスクを管理する上で不可欠と言えます。

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米国公認会計士・米国税理士(Enrolled Agent)

米国の大手会計事務所にて日系企業を含む多国籍企業の国際税務実務に従事。現在は、同じく米国の日系会計事務所にて会計・税務を軸にアメリカ進出企業のバックオフィス業務を幅広く支援している。アメリカビジネスの情報メディア「BRIDGE HUB」を運営。

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