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【アメリカ税制】米国子会社への出資・貸付時に注意すべき税務論点とは?実務上のポイントを米国公認会計士がわかりやすく解説

2025.08.03
09. 海外各国の税制

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本記事では、日本の親会社が米国子会社へ資金注入する際の税務上の留意点を分かりやすく解説します。資金注入における出資・貸付の選択から、日米租税条約に基づく源泉税の軽減・免除、特典制限条項(LOB)、IRC §163(j)による利子控除制限まで、資金注入を行う際に必ず整理しておくべき重要ポイントを整理しましょう

はじめに:米国子会社への資金注入方法の選択

日本企業が米国市場へ進出したのち子会社を設立・運営する際、その活動を支えるための資金注入は避けて通れない経営判断です。この資金提供の方法は、単なる財務上の選択にとどまらず、米国税務上、極めて重大な影響を及ぼす戦略的な意思決定となります。その選択肢は、主として「出資(Equity)」と「貸付(Debt)」の二つに大別され、どちらを選ぶかによって将来の利益還流の形態や課税関係、そして遵守すべき税法規が根本的に変わってきます。本稿では、この二つの資金注入方法が米国税務に与える影響を体系的に整理し、日本親会社の経理・財務担当者が直面するであろう実務上の論点を実務の視点から深く掘り下げて解説します。

選択肢としての「出資(Equity)」と「貸付(Debt)」

まず、二つの資金提供方法の基本的な性質を理解することが不可欠です。

出資 (Equity) とは、親会社が子会社の株式を引き受ける対価として資本を投下する行為です。これにより、親会社は子会社の株主としての地位を得て、子会社の資本基盤が形成されます。この投資に対するリターンは、子会社の利益の中から支払われる「配当」という形で実現されます。

貸付 (Debt) とは、親会社が子会社に対して金銭を融資する行為です。これにより、両社の間には債権者と債務者の関係が成立します。子会社は、契約に基づき元本を返済する法的義務を負い、その対価として「利子」を支払います。つまり、利子支払いによって初期の注入資金を回収する方法ともいえます。

事業の性質や成長可能性、支配権の維持といった経営上の観点から最適な方法は異なりますが、税務上の観点からはこの選択が将来のキャッシュフローと税負担を大きく左右する分岐点となります。

税務上の影響の概観

出資と貸付の選択は、米国子会社から日本親会社へ資金を還流させる際の税務上の取り扱いに直接的な違いをもたらします。

出資の場合、利益の還流は「配当(Dividends)」として行われます。この配当金は、米国から国外の株主へ支払われる所得とみなされ、原則として米国内で源泉徴収課税の対象となります

貸付の場合、資金の還流は「利子(Interest)」の支払いという形をとります。この利子も同様に、米国での源泉徴収の対象となります。しかし、配当と決定的に異なるのは、子会社側で支払利子を費用(損金)として計上し、課税所得を圧縮できる可能性がある点です。

この「支払利子の損金算入」という税務メリットは、貸付を選択する大きなインセンティブとなり得ます。しかし、米国税法はこのメリットを無制限に認めているわけではありません。むしろ、租税条約の適用要件や後述する利子控除制限ルールといった幾重もの複雑な規定によって厳しく制限されています。したがって、資金注入の戦略を立てる際には、この初期段階の選択が、将来どのような税務上の課題と対峙することになるかを決定づけるという認識が不可欠です。

米国における源泉税の基本:日本親会社への支払いに伴う課税

米国子会社から日本の親会社へ配当や利子を支払う際、まず理解すべき基本原則が米国の「源泉徴収制度」です。これは、日米租税条約による軽減措置を検討する前の、いわば出発点となる税制です。

源泉徴収義務とは何か

米国内国歳入法(Internal Revenue Code:IRC)は、米国内の源泉から米国外の法人や個人(非居住者)に対して特定の種類の所得を支払う際に、支払者に対して源泉徴収と納税を義務付けています。 この対象となる所得は「固定的、確定的、年次的又は定期的な所得(Fixed, Determinable, Annual, or Periodical Income、通称、FDAP Income)」と呼ばれ、配当や利子、使用料などが典型例です。この制度において、支払いを行う米国子会社は米国税務当局(IRS)に代わって税金を徴収し納付する「源泉徴収義務者(Withholding Agent)」としての法的責任を負います。

米国の国内法が定める源泉徴収の標準税率は、原則として30%です。 この税率は、子会社の利益の有無にかかわらず、支払われる配当や利子の「総額(Gross Amount)」に対して課されるという点が極めて重要です。 つまり、経費などを差し引く前の支払額面全体が課税ベースとなります。この30%という高い税率が、後述する租税条約の適用がなぜ実務上不可欠であるかを物語っています。

配当と利子に対する源泉税

この基本原則を、日本親会社への支払いに当てはめてみましょう。もし日米間に租税条約が存在しないと仮定すれば、米国子会社から日本親会社へ支払われる配当や利子は、その全額が30%の源泉徴収の対象となります。

例えば、米国子会社が日本親会社に100万ドルの利子を支払うケースを考えます。この場合、米国子会社は支払額の30%にあたる30万ドルを源泉徴収してIRSに納税し、残りの70万ドルのみを日本親会社に送金することになります。これは、グループ全体のキャッシュフローに非常に大きな影響を与えると言えるでしょう。この厳しいデフォルトのルールを理解することが、租税条約の恩典を正しく活用するための第一歩となります。

日米租税条約の活用による源泉税の軽減・免除

前述の30%という高い源泉税率は、あくまで米国の国内法上の原則です。幸いなことに、日本と米国の間には二重課税の排除や租税回避の防止を目的とした「日米租税条約」が締結されており、これを適切に適用することで、税負担を大幅に軽減、あるいは免除することが可能です。

租税条約の役割と優先適用

二国間で締結される租税条約は、それぞれの国の国内税法に抵触する場合、国内法に優先して適用されるという効力を持っています。 これにより、条約で定められた低い税率(限度税率)が国内法の30%という税率に取って代わることになります。ただし、この条約の恩典は自動的に受けられるものではなく、所定の手続きと要件を満たすことが前提となります

配当 (Dividends) に対する軽減税率

日米租税条約では、配当に対する源泉税率について、親子間の資本関係の深さに応じて段階的な軽減措置を設けています

  • 一般配当(Portfolio Dividends): 日本親会社の持株比率が10%未満の場合など、後述の条件を満たさない配当については、源泉税率が10%に軽減されます。
  • 親子会社間配当(Parent-Subsidiary Dividends): 日本親会社が、配当を支払う米国子会社の議決権株式を10%以上保有している場合、税率はさらに5%まで引き下げられます
  • 完全免税(Full Exemption): これが最も重要な特典です。日本親会社が、配当の支払いが確定する日に終了する12ヶ月間のすべてにおいて米国子会社の議決権株式の50%超を直接または間接に所有している場合、源泉税は0%、つまり完全に免除されます

この免税規定は、日本企業が米国での事業から得た利益を効率的に本国へ還流させる上で、極めて強力なツールとなります。

利子 (Interest) に対する軽減・免除

日米租税条約第11条により、米国法人から日本の親会社に支払われる利子については、原則として米国での源泉徴収が免除されるという非常に有利な取り扱いが認められています。通常であれば、外国人への利子支払いには30%の源泉税が課されますが、同条約の適用により日本法人が実質的受益者である場合、この源泉税は免除されます。

ただし、支払利子が「利益連動型利子(contingent interest)」に該当する場合には例外的に免除は適用されず、10%の軽減税率が適用されることがあります。これは、実質的に配当に類似した性質を持つ支払いが利子として処理されることによる租税回避を防ぐための措置となっています。

租税条約の恩典を享受するための壁:特典制限条項(LOB)

日米租税条約が提供する源泉税の軽減・免除は非常に強力ですが、この恩恵はどの企業でも無条件に受けられるわけではありません。条約の恩典が、本来意図されていない第三国の居住者によって濫用される「条約漁り(Treaty Shopping)」を防ぐため、日米租税条約には特典制限条項(Limitation on Benefits、以下「LOB条項」)という極めて重要なフィルターが設けられています。

このLOB条項をクリアし、条約上の「適格な居住者(Qualified Person)」と認められなければ、たとえ日本の法人であっても原則として租税条約の特典(例えば、配当の軽減税率や利子の免税)を享受することはできません。したがって、資金注入戦略を立てる上で、自社がこのLOB要件を満たすかどうかの事前確認は、必須のデューデリジェンスとなります。

「適格な居住者」となるための主要なテスト

日米租税条約第22条に定められているLOB条項には、企業が「適格な居住者」に該当するかを判定するための複数のテストがあります。日本の親会社が満たすべき代表的なテストは以下の通りです。

  1. 上場会社テスト(Publicly Traded Company Test) これは最も明確で、多くの大企業が依拠する基準です。親会社が、日本国内の公認された証券取引所(東京証券取引所など)に主として、かつ、恒常的に取引される上場企業である場合、このテストを満たし「適格な居住者」と認められます。
  2. 所有・基礎侵食テスト(Ownership and Base Erosion Test) 非上場会社の場合に、主に検討されるのがこのテストです。以下の二つの要件を両方とも満たす必要があります。
    • 所有要件 (Ownership Test): 会社の議決権株式の50%超が、LOB条約上の「適格な居住者」(例:日本の上場企業、日本の居住者である個人など)によって、少なくとも365日のうち半数以上の日において直接または間接に所有されていること。
    • 基礎侵食要件 (Base Erosion Test): その会社の課税年度の所得のうち、損金算入が可能な支払(利子や使用料など)で、適格な居住者以外の者へ支払われる金額が、会社の総所得の50%未満であること。これは、子会社から得た利益を、税務上の恩恵がない第三国へ安易に流出させることを防ぐための規定です。
  3. 能動的事業テスト(Active Trade or Business Test) 上記のテストを満たせない場合の、いわば救済措置です。日本親会社が日本国内で「能動的な事業」を営んでおり、米国子会社から得られる所得(配当や利子)が、その日本での能動的事業に関連して生じたものである場合、またはその事業を補完するものである場合に、限定的に条約の恩典が認められる可能性があります。

これらのLOB要件の判定は非常に複雑です。実務上、米国子会社は源泉税の免除・軽減を受けるために、IRSの様式であるフォームW-8BEN-Eを親会社から受け取り、保管する義務があります。このフォーム上では、親会社は自らがどのLOB要件を満たして「適格な居住者」に該当するのかを宣誓する必要があるため、法的根拠に基づいた慎重な判断が求められます。

貸付のメリットを制限するもう一つのハードル:支払利子控除制限(IRC §163(j))

貸付を選択する大きな動機は、米国子会社側で支払利子を損金算入し、課税所得を圧縮できる点にありました。しかし、米国税法はこのメリットを利用した過度な節税(アーニングス・ストリッピング)を抑制するため、内国歳入法(IRC)第163条(j)項を規定しています。

このIRC §163(j)項を簡単にいえば、企業の支払利子の損金算入額に直接的な上限を設ける規定です。このルールは、親子会社間のような関連者間取引に限定されず、銀行借入など第三者への支払利子を含む、事業に関する全ての利子費用が対象となる非常に広範なものとなってるため、注意が必要です。

利子控除の制限額とその計算

IRC §163(j)による年間の利子控除上限額は、原則として以下の合計額となります。

  • その年度の調整後課税所得(Adjusted Taxable Income, ATI)の30%
  • その年度の事業上の受取利子
  • その年度の資産購入にかかる支払い利子(Floor Plan Financing Interest)

この中で最も重要なのが「調整後課税所得の30%」という基準です。調整後課税所得とは、大まかに言うと、税引前利益(EBIT)に近い概念です。具体的には、課税所得から受取利子などを除外し、支払利子や税金、そして2022年以降は減価償却費などの非現金支出費用を足し戻さない形で計算されます。減価償却費の足し戻しが認められなくなったことで、多くの企業にとって調整後課税所得が圧縮され、利子控除の制限がより厳しくなっています(補足ですが、2025年7月に成立したトランプ税制「One Big Beautiful Bill Act」においてはこの減価償却費の足し戻しが認められるようになり、控除限度額が大幅に増加しました)。

【設例】

  • 米国子会社の調整後課税所得(ATI)が $1,000,000
  • 日本親会社への支払利子が $400,000

この場合、年間の利子控除上限額はATIの30%である400,000の利子を支払っていても、その年度に損金算入できるのは100,000は控除が否認されます。

(補足)控除否認された利子の行方

控除を否認された利子は、永久に消滅するわけではありません。その金額は、無期限に将来の年度へ繰り越す(Carryforward)ことが認められています。そして、将来の事業年度で利益が拡大し、ATIに余裕(ATIの30%が支払利子を上回る状況)が生まれれば、その繰り越された利子を損金として算入することが可能です。

しかし、設立間もない赤字企業や大規模な設備投資で減価償却費が大きい企業の場合、ATIが低額あるいはマイナスになることも少なくありません。その結果、親会社からの借入に対する支払利子の大部分が損金算入できず、期待していたタックスメリットを享受できないという事態に直面するリスクもあります。資金計画を策定する際には、将来の収益計画と連動させたIRC §163(j)のシミュレーションが不可欠といえます。

まとめ:戦略的な資金注入計画の重要性

本稿で見てきたように、日本の親会社が米国子会社へ資金を注入する方法の選択は、単なる財務上の手続きではありません。それは、日米両国の税法が複雑に交差する極めて戦略的な意思決定です。

  • 出資は配当による利益還流を目指しますが、米国での源泉税が課される可能性があり、日米租税条約の適用が鍵となります。
  • 貸付は利子による資金回収と子会社の損金算入というメリットがありますが、そのメリットは支払利子控除制限(IRC §163(j))によって厳しく制限されます。
  • どちらの方法を選ぶにせよ、租税条約の恩典を受ける大前提として、親会社が特典制限条項(LOB)をクリアする「適格な居住者」でなければならない点に注意が必要です。

これらの規定は相互に影響し合うため、「出資か貸付か」という単純な二者択一で考えるべきではありません。企業の成長ステージや収益性、LOB条項の該当状況などを総合的に勘案し、出資と貸付を組み合わせるハイブリッド・アプローチ(例えば、一部を出資、一部を貸付とする)が最適解となるケースも多くあります

米国での事業を成功に導くためには、財務戦略と税務戦略を不可分一体のものとして捉え、資金注入の初期段階から日米の税務専門家と緊密に連携し、自社にとって最も有利なストラクチャーを構築することが不可欠と言えるでしょう。


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